「そうした黒人暴動は前年から各都市で続発するようになり、その数はすでに十件以上にも上っていた。(中略)中でも最大規模の暴動は、レナード少年が逮捕される半年前の一九四三年六月二十日、自動車産業の町として知られるミシガン州デトロイトで起きていた」(出井康博『日本から救世主が来た』新潮社刊 一五〇〇円) 一九四一年、真珠湾攻撃により日米戦争が勃発した前後、米国では中西部の工業地帯を中心に黒人暴動が相次いだ。しかも、驚くべきことに黒人たちは敵国である日本を熱狂的に支持していたのである。 米国内の治安維持を担っていた時のフーバーFBI長官はこうした事態に頭を痛め、その取り締まりに躍起になっていた。 続発した黒人暴動の背景には一人の日本人の存在があった。一九三〇年代に貧困と差別にあえぐ黒人たちを組織し、白人社会への反逆を唱え、黒人たちから「神」「救世主」と崇められたその男の名は「ナカネ・ナカ」。明治初期に九州大分県に生まれた彼が、いかにして「黒人の神」と言われるようになったのか。偉大なる理想家か、希代の扇動家か――。 本書は、彼の生い立ち、米国での足取りなどをたどり、人間像を再現していく。さらに、日米開戦前夜に、ナカネらの活動に着目した日本政府が黒人を日本の味方につけることで米国を分断しようと画策した「黒人工作」の実態にも迫っている。

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