事件を子どもにどう伝えるか

執筆者:池上彰2001年7月号

小学生ら二十三人が殺傷された大阪・池田小学校の事件。これほどまでに陰惨な出来事を子どもたちにどう伝えればよいのか――「こどもニュース」のお父さんは悩んだ。 六月八日の午前。何気なくテレビをつけると、画面には学校の校庭が映っていた。上空のヘリコプターから中継する映像だった。大阪教育大学付属池田小学校に男が乱入し、児童に包丁で切りつけた事件を伝える臨時ニュースが始まったところだった。 校庭の上空から送られてくる中継映像。校舎から校庭に飛び出してくる小さな豆粒のような児童たちの動きをとらえていた。この豆粒のようなひとつひとつが、白と紺の制服姿であることが見てとれる。このひとつひとつが、いたいけな子どもたちだと考えたとたんに、不覚にも涙があふれ出た。「あの子たちは、いまどんな思いで駆け出しているのか」と思うと、胸が締めつけられたからだ。 翌日、ある新聞の一面に、我が子が無事だったことを知った母親が、子どもを抱きしめて泣きじゃくっている写真が掲載された。安堵の涙とは、こういうものなのか。「ああ、自分だってこの立場になったら、きっと泣きじゃくるよなあ」と思ったものだ。子ども向けニュースの難しさ 私が担当する「NHK週刊こどもニュース」は、世の中の出来事を小学校高学年以上の子どもたちに伝える番組。夫婦と三人の子どもたちという家族の設定で、私は父親役であると共に、番組の編集長でもある。

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