ITワールドカップ

執筆者:伊藤洋一2001年7月号

 二十一世紀に入って早々だというのに、日米欧そろい踏みでの景気鈍化の足音が聞こえる。先行き「世界同時不況」の懸念もしなければならないが、まず出張ってくるのは先進国の財務相や中央銀行の総裁たち。サミットなど会議を開いては「協調」を謳い、あなたのところは利下げ、私のところは減税、どの国も規制緩和とお馴染みの“マクロ的”処方箋が並ぶ。 しかし、「協調」の中身が空疎なことは誰でも知っている。財政が出せるのはアメリカぐらい。欧州はインフレ懸念があり、日本の金利水準はもう下がない状態。日本で改めて財政出動の話でもしようものなら、債券市場の反乱が懸念される事態になっているし、その兆しは既に見える。「マクロ的協調政策」に対する市場の感応度は落ちている。それを明確に示しているのは、世界中の株式市場だ。先進国が「協調」の旗を掲げて、従来型の政策を並べれば並べるほど、株安は南米、北米、アジア、欧州と足音を強めながら、世界中を徘徊している。     * 聞きたくもない足音が聞こえてきた背景は何だろう。一時は夢を売り、膨大な投資資金を集め、過熱状態だったIT産業での「過剰(excess)」だろう。株価の過剰、投資の過剰、在庫の過剰。思ったほどには需要(PC需要、サーバー需要、通信需要などなど)は伸びなかった。アメリカを中心に表面化したのは、ハイテク産業での在庫の山であり、これが企業活動を減退させ、労働者のレイオフを呼び、そして株価の下げを誘発している。「世界経済の一体化」の中で、アメリカ発のハイテク不況は世界に伝播している。

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