南部へUターンするアメリカの黒人たち

執筆者:浅井信雄2001年8月号

 過去二十年間、米国の民族問題の人口上の焦点は、最大少数民族の黒人を、ヒスパニックがいつ追い越すかであったが、世紀の変わり目のいま、ついにわずかながらヒスパニックが抜いた。さらに、二十世紀に南部から北上し続けた黒人が、南部へ大規模にUターンするという、注目すべき回帰現象も確認されるに至った。 二〇〇〇年の国勢調査によれば、前回調査の一九九〇年からの十年間に南部十六州一特別区の黒人は約三六〇万人も増加した。これは全米の黒人増加数の約六〇%にあたり、北東部、中西部、西部では黒人は減っている。 黒人の南部回帰は七〇年代に始まったが、九〇年代の南部の黒人増加は七〇年代や八〇年代と比べほぼ倍増の規模だ。南部ではヒスパニックも増えたが、二〇〇〇年の調査を見る限り、南部人口全体のうち白人六六%、黒人一九%に対して、ヒスパニックは一二%にすぎず、主に白人と黒人の地という伝統的構成を強める傾向にある。 アフリカから奴隷として連れてこられたがゆえに、アフリカ系米国人とも呼ばれる黒人は、まず南部諸州で農場労働者として働く。悲劇的な人種差別の時期を経て一八六三年の奴隷解放宣言を境に、黒人の権利拡大の要求と白人の反撃が繰り返される。

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