ルック・シンガポール

執筆者:澤木範久2001年9月号

 八月中旬、久しぶりに訪れたシンガポールは、危機感に満ちていた。世界的な経済減速のあおりで、七月の非石油部門の輸出は前年比二四・二%減。一九八〇年以来、最大の下落だそうだ。 中継貿易から、外資導入による輸出立国、最近はIT先進国へと、東南アジアの優等生として経済の高度化を図ってきたシンガポール。ショッピング街などは大混雑で、どこが不況かという感じだが、知人たちは「IT関係が軒並みだめ」と、口をそろえる。 しかし、本当に驚かされたのは、そうした目先の危機のみならず、長期的な危機への対応が盛んに語られていたことだ。 七十八歳の今も元気な「国父」リー・クアンユー上級相(前首相)は叫んでいた。「この不況が回復しても、失われた職の多くは戻ってこない。中国が取っていってしまうからだ。単純労働者は、職業訓練を受けて、新しい技術を身につけねばならない」。 リー氏の後継者ゴー・チョクトン首相も、八月十九日、建国記念の演説で訴えた。「中国の成長は著しい。地価も賃金もわれわれの何十分の一だ。労働集約産業ではもはや勝てず、外国投資も東南アジアからシフトしてしまう」。 それでも、シンガポールのような小国には孤立は許されない。この波に乗るしかない。つまり、グローバリゼーションの大競争にどう勝つかである。

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