WTC崩壊で生じた史上最大の保険損害に、不穏さを増す国際情勢が追い打ちをかける。保険システムの“網の目”に連なるすべての企業が、リスクの重みに圧迫され始めた。[ロンドン発]「九月十一日」は、世界の安全保障の概念を根底から変えてしまった。米国をはじめ同盟国は、今後、国家の制御が及ばないテロ集団との「新しい戦争」を戦い続けなければならない。もっとも世界貿易センター(WTC)ビルを資本主義の象徴と捉えてみれば、火の手が上がったのは米国の覇権を支えたグローバル市場経済だ。その体制をテロルがどこまで蝕むのかは定かでないが、最初に壊れかねない急所は挙げられる。企業や経済活動のリスク管理に不可欠な保険ビジネスも、その一つである。 テロからおよそ十日後、ミュンヘン・リー、スイス・リーは、同時テロによる損害額がそれぞれ二十一億ユーロ(約二千三百億円)、二十億スイスフラン(約一千五百億円)に達すると発表した。両社は世界一、二位の再保険会社。「リー」は再保険(reinsurance)の略だ。 地震や台風など自然災害、テロや大規模事故がもたらす損害は、単一の損害保険会社では負担し切れない損失額に達する。数百人の客を乗せて運航する旅客機、数万人規模のビジネスマンを収容する高層ビル……。資本主義を象徴するこうした巨大な設備が自然災害やテロをはじめとする不慮の事件で損害を被れば、企業や社会に与える損失は天文学的な数字に膨らむ。

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