宗教はなぜ対立を激化させるのか

執筆者:立山良司2001年10月号

 米国の同時多発テロは、宗教が持つ両義性を改めて浮き彫りにした。 宗教は一方で平和や非暴力を説きながら、他方でこれほどの暴力と犠牲を要求している。今回のテロ事件は、「イスラム原理主義のテロ」という限定的な見方をされ、場合によっては歪曲された視点で捉えられがちだが、宗教が持つ両義性と現代の紛争やテロとの関係というもっと幅広い文脈で見る必要がある。 この連載では、宗教が関係している世界各地の紛争を取り上げてきた。パレスチナやインドネシアのマルク諸島、スーダン南部の内戦、カシミール、中国の新疆ウイグル自治区などで起こっている紛争は、いずれもイスラムが関係している。 しかし、北アイルランドやチベットのようにイスラムとは関係のない紛争も存在する。これらの紛争を見ると、宗教が決定的な要因を果しているように見えるが、その背景となっている事象を解釈する目はさまざまだ。 宗教に基づく文明間の違いが紛争を引き起こすというサミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」論はあまりにも有名だ。もっとも今回のテロに関して、ハンチントンはまだ「文明の衝突」にまで発展していないと若干、発言を後退させている(『読売新聞』九月二十七日)。一方、スウォースモア大学のジェームズ・カースは、各地の紛争の背景は政治や経済の問題として説明した方が、宗教でとらえるよりずっと説得的だと主張している。

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