「中国脅威論」が隠してしまうこと

執筆者:伊藤洋一2001年10月号

 日本には根強い「中国脅威論」がある。ここで指摘したいのは安全保障的な観点ではない。中国で製造された製品が日本国内に流れ込んで物価を押し下げ、日本のデフレ、不況を深刻化させている、という主張である。 もちろん、この主張は一面の真実だ。日本企業そのものが中国に進出して工場を造り、衣類から自動車までの製品を製造し、そのうちかなりの部分を日本に還流させている。それが日本の従来の価格体系を壊し引き下げて、デフレ環境を加速させているからである。ユニクロを例に挙げるまでもなく、また衣料に限らずとも、日本の市場では「メイド・イン・チャイナ」が増加の一途を辿っている。 ここ数年は毎年中国に行く。去年は東北地方、今年は九月上旬に重慶、宜昌といった内陸部から上海へと旅行した。公式に受ける説明では、依然として所得水準は低い。大卒の月給は六百元。一元=約十五円だから九千円の計算だ。重慶では農閑期に近郊の農民が長さ一メートルくらいの竹竿を使って、一回二元で荷物担ぎをしているという。その人口は約三十万人。中国は依然として安い労働人口のプールなのだ。 しかし一方で、我々の目から見てもかなり豊かな人々が中国にはいる。上海では週末に空港にも近い有名店「楼外楼」(こじき鳥で有名)で食事をしたが、私が見たのは、一家揃って食事をする何組もの中国人家族だった。身なりも立派だった。

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