遅すぎた松下幸之助神話の破壊

執筆者:杜耕次2001年11月号

“経営の神様”が作り上げた制度は次々破壊され、創業家の地位も低下……。V字回復を目指す中村改革が頓挫すれば、もはや暗澹たる未来しかないのか。「再生に向けて分に応じた負担を~松下幸之助vs.石原慎太郎」 十月半ば、全国紙朝刊にこんな見出しの雑誌広告が出た。 経営の神様・松下幸之助が死去して十二年。片や、今をときめく東京都知事の石原慎太郎。「マルクスvs.スターリン」といった架空対談の類かと思いきや、実はこれ、二十六年前に実際に行なわれた対談の再録。PHP研究所が発行する「季刊・松下幸之助研究」二〇〇一年秋季号のメインタイトルの一つである。「一九七五年五月、わが国はインフレ、不況で危機に直面していた……」と小さくはしがきがある。歴史に学ぼうという編集者の意図はうかがえるが、果たして現下の情勢で幸之助の経営センスがどの程度、読者の理解を得られるだろうか。経営の神様が心血を注いで築き上げた会社はいま、未曾有の危機に直面している。 十月三十日、松下電器産業は九月中間決算を発表した。その内容は、巨額損失のオンパレード。まず、今期中の早期退職者への割増退職金負担などが千三百億円、事業拠点統廃合や液晶生産設備廃棄などに伴う費用が七百億円で特別損失の合計額が二千億円。さらに上場来初という営業損益の赤字転落(千六百億円)が加わり、二〇〇二年三月期(連結)の最終赤字は二千六百五十億円に達する見通しだ。

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