[ロンドン発]カリブ海のトリニダード=トバゴ生まれのイギリスの小説家、V. S. ナイポールがノーベル文学賞を受賞――彼の作品を知る人々にとって、この知らせは驚きでも何でもなかった。この十年、常に候補として挙げられてきたからだ。では、なぜ今年の受賞となったのか。それは偶然でも何でもない。第三世界の指導者に対するナイポールの姿勢は辛辣で、ことにイスラム教に向ける視線はおよそ温かいとは言い難い。イスラム教徒を名乗る過激集団がアメリカに対する大規模テロを敢行し、世界中が彼らに嫌悪感を覚えている時だからこそ、ナイポールにノーベル文学賞が贈られたのだとしても、驚くことではないのだ。 しかし、ナイポールの作品が単にイスラムに対する姿勢のみで評価されたのだとしたら、あるいはノーベル賞委員会がその政治姿勢を基準に受賞者を決めるのだとしたら(実際、ノーベル賞は政治的理由に左右されがちだと誰もが認めるところではあるのだが)、それはとても残念なことだ。 ナイポールの作品は大きく二つに分類できる。彼の小説は旧植民地を舞台に、何かしらが欠落した男(女性はほとんど登場しない)の話であったり、あるいは植民地時代の「ご主人」のようになろうと、もがき苦しむ人々の失敗の連続の物語であったりする。

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