イスラム世界内部の新しい論争に注目する

執筆者:田中明彦2001年12月号

 戦局の推移というものは大変予測が難しい。十月上旬にアメリカ軍がアフガニスタンでの軍事作戦を開始したときには、ほぼ一カ月でタリバン政権を崩壊寸前まで追い込むことを予測できたものは多くなかった。ソ連をあれだけてこずらせたアフガニスタンである。空爆だけで屈強のパシュトゥン人戦士がアメリカに屈するわけはないではないか。山岳地帯のアフガニスタンはイラクのような容易に攻められる地形ではない。湾岸戦争の時のようにうまくいくわけがない。ベトナムのようになるだろうなどという観測もなされた。それぞれ一理ある観測であった。 後から振り返ってみると、いくつかの要因が見過ごされていたのかもしれない。第一は、今回の戦争でタリバンを支援する国家はどこにもなかったということがある。ソ連のアフガニスタン戦争においては、ソ連と戦ったアフガニスタン戦士には、パキスタンを通してアメリカからの支援があった。またベトナム戦争において北ベトナムはソ連と中国からの支援を受けていた。いかに屈強の戦士たちといえども、外部からの支援が全くないなかでアメリカと対決するというのは難しい。第二に、アメリカ軍の能力の驚くべき向上ぶりである。湾岸戦争、コソボへのNATO(北大西洋条約機構)の空爆の時、さらには今回も、常に空爆だけでは戦争の帰趨は決らないと論評された。しかし、この三つの事例からは、空爆の恐るべき効果が分かるのではないか。イラク、コソボと二回にわたる大空爆作戦を行なったアメリカには、大変な能力が備わっていたのであろう。

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