日産自動車は二〇〇一年四月一三日、「日産陸送の株式をMBO方式で譲渡」と題するニュースリリースを公表した。同社の子会社で、工場から全国のディーラーに自動車を配送する日産陸送の全株式を、子会社社長の岩下世志をはじめとする経営陣と投資ファンド二社に、MBO(マネジメント・バイ・アウト)方式で譲渡することで合意したという内容だった。 リリースはわずか六〇〇字足らず、マスコミもそこに書かれた以上の内容を報道することはなかった。要するに、さして重要なニュースだとは思われなかったのだ。しかし、このMBOは、企業再生に賭ける者たちのダイナミックな攻防の結果だった。 MBOとは、子会社の経営陣が親会社の持つ株式を買い取って独立する事業譲渡手法の一つだ。いわゆる“のれん分け”と考えればよい。業務を熟知した経営者が買い取ることで事業承継がスムーズに進み、社員のモラル向上にもつながる。日本の経営風土に合った企業活性化策として注目され、九九年一〇月施行の産業活力再生特別措置法では、MBO促進のための法制がいくつか整備された。 日産陸送の場合、社長の岩下をはじめとする経営陣が、投資ファンドの協力を得て買い取ったのだが、日産の直系企業で売上高が四五〇億円を超える企業の買収であったことから、規模はもちろん、大企業グループの事業リストラ策としてもかつてないMBOとなった。

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