イヴ・サンローラン氏の引退

執筆者:高松弥生2002年2月号

 四十年間、世界のファッションをリードし続けたフランスの有名デザイナー、イヴ・サンローラン氏(六五)が一月、ファッション界から引退した。デザイナー人生の終幕はオートクチュール(高級注文服)のショーだった。パリでだけ認定される服飾の最高峰、オートクチュールを基盤に築きあげられたブランド、イヴ・サンローラン。だが今やその経営権は、多くの高級ブランド同様にフランスの流通王が手中に握る。仏フランの退場に伴われて先駆者が表舞台を去り、ユーロ通貨の登場とともに新たなファッションビジネスの地殻変動が始まった。「ブランド名だけのためにオートクチュールを着るような時代に嫌気がさしたのだ」。サンローランの引退理由について、実務を仕切ってきたピエール・ベルジェ氏はこう説明したが、皮肉にも「ブランド名」を売り物にする服飾ビジネスは、彼らが生みだし、育てたものに他ならない。 サンローラン氏は弱冠二十一歳でクリスチャン・ディオールの後継者としてデビュー。一九六二年に独立し、その後いち早くプレタポルテ(高級既製服)の分野に乗り出した。 オートクチュールは最高級の素材と伝統的な職人芸を駆使したオーダーメードの衣料。簡単なスーツでも一着百万円程度からと高価で、スーパーリッチな女性をターゲットにする商品だ。サンローランは、これを扱うことで得られるブランド力をバネに、パリ風エレガンスの夢をちりばめたプレタポルテを誰でも買うことのできる衣料として売り出し、「ファッションを解放」(サンローラン氏)した。

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