自爆テロ国家への米国の処方

執筆者:徳岡孝夫2002年2月号

 涙は女の最大の武器で、泣かれると男は太刀打ちできないという。一度も泣かせたことのない者には、小泉発言の当否は分らない。だが男も女もひっくるめて、誰も太刀打ちできない武器が、他にもう一つあって、それは自爆テロである。 普通の乗客のふりして乗った旅客機をハイジャックし、世界貿易センタービルに突入して三千人を殺した。乗り合わせて死んだ客やビルで死んだ人々は、犯人たちの名を知らず、会ったこともない。パレスチナ人に害を加えたこともない。文明社会を泳ぐ、罪なき一泳者にすぎなかった。 イスラエルのある町のパーティに、一人のパレスチナ青年が入ってきた。遅れて来た客か? 文明社会には、パーティに遅れて来る人がよくある。 青年はポケットに手榴弾を、上着の下に自動小銃を隠していた。会場に入ると、銃を取り出して撃ち始めた。六人が殺され、手榴弾で三十人が負傷した。駆けつけた警官が青年を射殺したが、彼は最初から死ぬ気だった。彼と殺した女子供とは全く面識がなく、むろん殺すべき動機もなかった。 文明社会は、ゆえなくして互いに他者に危害を加えないのを前提に成り立っている。通勤電車の中で、いきなり隣に立っている男に刺され、いまわのきわに見ると、犯人は返す刃で喉かき切って自殺していた。そういう事件が頻発すれば通勤電車は走れず、通勤はなくなり、文明は崩壊する。自殺(爆)テロを防ぐ手はない。

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