サッカークラブ 新たなる地域の求心力

執筆者:水木楊2002年4月号

 この十年は失われた十年と言われるが、どっこい、新しく生まれ育ったものもある。地域社会に根を下し、住民たちのエネルギーを吸い上げることに成功しつつある、いくつかのサッカークラブがそれだ。日本のプロスポーツは企業と直接結びついて発展し、プロの卵は文部省や教育委員会が目を光らせる高校の選手から生まれてきた。しかし、サッカークラブは十五歳以下から成人にいたるまでの少年たちをトップアスリートにすべく一貫した目で育成し、頂点に立つプロチームは企業名ではなく地域名をいただいて、地域住民の心をひとつにする求心力になっている。現代の「鎮守の森」 まず代表的な存在である浦和レッズを取り上げてみよう。 ある日の駒場スタジアム――。試合日の早朝、サポーターたちがスタジアム周辺に列を作る。その数、およそ二千人。彼らは並ぶ順番を前日の抽選ですでに決めている。にもかかわらず、なぜ並ぶかといえば、スタジアムの自由席のうち一番良い場所を取るためだ。それだけではない。スタジアムが開くまでの十一時間余りは、サポーターたちがレッズを語る格好の場となる。開場とともにどっとなだれ込んだ彼らは、それぞれの場所に赤地に思い思いの意匠をこらした大旗を掲げ、横断幕を張って陣取る。どこに陣取ってもいいのだが、いつの間にか「指定席」も生まれている。駒場は陸上競技場でもあるから、スタンドが四角ではなく、角がカーブしている。そのカーブした場所は「クルバ」(イタリア語でカーブの意味)と呼ばれ、その東側に最も狂熱的なサポーター集団が陣取る。

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