官僚たちが「先送り」を選ぶ理由

執筆者:鶴光太郎2002年5月号

政策危機の背景にあるのは、官僚を巡るシステムの機能不全だ。「仕切られた多元主義」を超えるために、いま何に着目すべきなのか。 九〇年代から続く金融危機、BSE(狂牛病)問題、更には鈴木宗男議員と外務省を巡る問題などが大きなイシューとなる中で、今、官の使命、政と官の関係が改めて問い直されている。本稿では、こうした政策危機が引き起こされた背景を、官僚のインセンティブ・メカニズム、つまり、官僚の目標や人事システムに焦点を当てることで解明してみたい。     * 政策決定メカニズムあるいは政官の関係を考える上で、官僚のインセンティブ、ガバナンス構造にまでおりて考えることが重要である。この場合、株主―経営者や雇用主―雇用者の場合と同様に、プリンシパル―エージェント(依頼人―代理人)アプローチが有効である。つまり、官僚を依頼人(主人)たる国民(及びその声を代表する政治家)から社会の厚生を最大化するように依頼された代理人とみなすのである。 ここで、企業の経営者が必ずしも株主の利益を最大化するような行動をとらないのと同様、官僚が社会にとって最適な政策を実施するとは限らないことが容易に想像できる。さらに、民間企業やその労働者に比べ、官僚のガバナンスやインセンティブの問題を複雑化させている特徴がいくつか指摘できる。例えば、株主―経営者の関係と比べても、官僚の追求しなければならない目標は多様であり、そのパフォーマンスの絶対評価は難しい。また、考えや好みの異なる多様な国民に広く薄く所有(コントロール)されているという点もある。

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