イギリスかスペインか――揺れるジブラルタル

執筆者:サリル・トリパシー2002年5月号

三百年におよぶ領有権争いの末、イギリスが地中海の要衝ジブラルタルの返還に動き始めた。ところが、地元住民の圧倒的多数はスペインへの返還に猛反発しているという。尊重されるべきは誰の意思なのか。[ジブラルタル発]地中海の要塞都市ジブラルタルが揺れている。宗主国である英国が、スペインへのジブラルタル返還に動き出したからだ。地元住民の危機感は大衆紙『ヴォックス』の大見出しに代弁されている。「やってみろ、ブレア! タダでは済まないぞ!」。いったい何が起きているのだろうか。 ジブラルタルは、イベリア半島南端、モロッコに面して大西洋から地中海への出入りを制する要所を占める小さな町だ。この町の存在は時代錯誤の最たるものだと、スペインは主張し続けてきた。 確かに、通りの様相は妙ではある。道路標識は英語で書かれ、通貨はユーロも流通しはじめたものの、基本は英国ポンド。あちこちのビルには英王族の訪問を記念するプレートが飾られ、目抜き通りには英国百貨店のマークス・アンド・スペンサーやBHSが店を構えている。パブで出されるのは英国産ビールやフィッシュ・アンド・チップス。おまけに、町を巡回する警察官は、赤い上着に白いヘルメットという英国の制服姿だ。それなのに、空港の裏手にある国境を越えれば、そこは、スペインのカディス州であり、アンダルシア地方なのだ。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。