首相がいま味わう“恐怖”

執筆者:2002年5月号

 小泉純一郎首相が最近、好んで引用する「論語」の一節がある。「人知らずして慍らず、また君子ならずや」 学而篇の第一章、つまり論語の冒頭の「学びて時に之を習う、また説ばしからずや。朋有り遠方より来たる、また楽しからずや」に続く言葉で、「能力を人に認めてもらえなくても、恨まず憤らず自分の信じる道を貫ける人は立派な人物だ」というほどの意味だ。 三月二十四日の防衛大学校の卒業式で「自衛隊の歴史と諸先輩の仕事ぶりは『人知らずして慍らず』そのものだった」「時に人々が理解を示さなくとも、いささかも憤ることなく、国を守るという諸君の活動が多くの国民の敬意と感謝によって報われることを期待する」と訓示。二十八日配信のメールマガジン「らいおんはーと」でも、「(地味な仕事に)くさらずに、自分の信念を貫いていったときに、他人の痛みがわかる立派な人となっていける」と、社会人一年生向けの、はなむけの言葉としてこの一節を紹介している。 郵政三事業民営化などの持論を曲げず、首相就任まで三十年近く「一言居士」「一匹狼」を貫いてきた小泉氏だ。諸国を訪ね歩き、理想の政治の実現を説くこと十余年、ついに用いられることのなかった孔子と自身をダブらせ、「時流に阿るな」と自負を込めてこの言葉を贈ったとしても特に違和感はない。興味深いのは、与党幹部との会食の席でも、首相がこの言葉を盛んに口にしていることだ。

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