フランス大統領選の決選投票に極右候補が残るという前代未聞の事態。しかし、極右支持率は今回、急激に増加したわけではない。憂うべきはむしろ、極右現象がフランス社会に着実に根付いてきていることだ。[パリ発]五月五日、決選投票が行なわれたフランス大統領選挙では、共和国連合(RPR)のジャック・シラク大統領が八二・二一%というフランス第五共和制始まって以来の高い支持率を獲得して圧勝した。しかし、台風の目となったのは排外主義者の極右、国民戦線(FN)のジャンマリ・ルペン党首。ルペンは四月二十一日に行なわれた第一回投票で一六・八六%を獲得して、シラクとの決選投票に漕ぎつけたからである。 第一回投票の後、ルペンは「勝利」を謳歌しながら、シラクとテレビで対談する意思を表明し、「シラクは私に会わなかったとは言えないだろう」と意味深長な発言を行なっていた。八八年大統領選挙でシラクがミッテランと激しい選挙戦を展開していた折、極右の支持票を得ようとしてシラクがルペンに二回も会ったという噂を裏付けるような発言だった。 他方、左派のショックは大きかった。この日の夜八時、第一回投票の開票予測が大型TVスクリーンで発表されるや、社会党本部は悲鳴と怒号でパニック状態に陥った。大統領選でルペンの後塵を拝したリオネル・ジョスパン首相の政界引退表明で再び支持者の悲鳴にも似たブーイングが巻き起こったが、やがてそれは茫然自失の支持者たちの涙に変わった。その夜から学生や労組を中心とする街頭デモが連日繰り広げられ、フランスは政治の大きなうねりに揺れた。

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