自由化をリードしていた電力市場で、なぜ停電騒ぎまで起こったのか。その陰には、制度の死角を巧みに突いた“疑惑の取引”のプレイヤーたちがいた――。[ヒューストン発]まるでおもちゃ箱をひっくり返したようだ。「リコシェ」「ゲット・ショーティ」「ファット・ボーイ」……。米連邦エネルギー規制委員会(FERC)が五月初めに公開した二〇〇〇年十二月六日付けの文書から、奇妙なコードネームが次々と飛び出した。いずれもエンロンが昨年末のカリフォルニア州の電力危機当時に手がけた価格操作や利益確保策の呼び名である。 ここで赤裸々に示されているのは、電力自由化の制度の不備を突いたり、規制の網の目をかいくぐったりして、エンロンが巨額利益をあげようとした手口。全米初の自由化に踏み切ったカリフォルニア州の電力市場を食い荒らした足跡だ。電力危機から約一年半。当時、カリフォルニアで本当に起きていたこととは何なのだろうか。エンロン破綻後に公開された内部文書は、その一端を白日の下に晒しつつある。 問題の文書はエンロンの顧問弁護士が同僚に宛てた内部資料で、記された手口は大きく分けて二つ。ひとつはカリフォルニア州の電力取引所(PX)で調達した卸売電力を、州外に高値で売り飛ばす手法だった。

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