900年を生き抜いた準国家・マルタ騎士団

執筆者:立山良司2002年7月号

 ローマの中心部、スペイン広場から南西にのびるコンドッティ通りは、アルマーニやバレンティノなどがずらっと並ぶ世界有数のブランド通りだ。その一角にある古びたビルの入り口に「マルタ主権騎士団・治外法権の地」と書かれた小さなプレートがある。実際、足を一歩踏み入れれば、そこは今も準国家の地位を持っているマルタ騎士団の“領地”だ。 騎士修道会(騎士団)は中世ヨーロッパで数多く結成された。その一部は今も存在している。歴史的に名高いチュートン(ドイツ)やテンプルは一度姿を消したが、近代になって再結成され、ボランティア活動などを行なっている。 だがマルタ騎士団の広報担当者によると、国際法上の主権を持ち、外交活動を展開しているのはマルタ騎士団だけだ。それ故、同騎士団はNGO(非政府組織)ではない。世界九十カ国によって承認され、うち六十カ国と大使を交換している。通常の国家と違う点は、国民や国法がないことだ。ちなみに日本は同騎士団を承認していないが、アジアではフィリピンやタイが承認している。 マルタ騎士団の歴史は聖地エルサレムが十字軍の支配下に入った十一世紀末にまでさかのぼる。もともとはバプティスト(洗礼者)のヨハネを守護聖人とし、キリスト教巡礼者の病人を介護する病院付き修道院(ホスピタラー)として始まった。一方、イスラム教徒との激しい対立の中、教会や巡礼者を守る軍事専門家集団としての騎士団が生まれたのも自然だった。この両者が合体し一一一三年、ローマ法王に公認されたのが、エルサレム聖ヨハネ騎士団である。

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