米通商代表部の広報は楽ではない。わずか約二百人の小官庁で、交渉相手国はアジアから欧州まで。国内政治をにらみ、交渉相手との駆け引きも考えながらブリーフィングする。 トリー・クラーク氏。ブッシュ(父)政権時代の一九八九―九二年、三十代でカーラ・ヒルズ通商代表のスポークスマンを務めた。当初しつこい日本人記者に手を焼いたが、その後慣れて記者団をうまく利用したのが印象的だった。 民主党政権時代は野に下り、大手PR会社ヒル・アンド・ノウルトンのワシントン事務所総支配人などを務めて自信をつけ、今はペンタゴンでラムズフェルド国防長官の広報担当次官補。「対テロ戦争のスピンドクター」を自任している。 だが、最近、ブッシュ政権内で情報工作をめぐり右派イデオローグたちと対立する局面が目立つ。 表面化したのは、「虚偽情報を流す機関」として物議を醸し、結局は廃止となった「戦略的情報局」の新設をめぐる対立だ。同局の設立は保守系週刊誌『インサイト』がすっぱ抜き、ニューヨーク・タイムズ紙が厳しく批判的に報道。結局世論の反発に抗しきれず、大統領の決断でご破算となった。実は、同紙に「リークしたのはクラーク次官補というのは公然の秘密」(ニュー・リパブリック誌)だ。

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