アフリカへの注目を高めたワールドカップ

執筆者:西川恵2002年8月号

 サッカー・ワールドカップ(W杯)は、日韓両国の相互理解の促進やアジアの活躍など、さまざまな政治的シグナルとメッセージを投げたが、私はアフリカに世界の目を向けさせた点を記しておきたい。 もっともW杯だけだったら、こうはならなかっただろうと思う。奇しくもW杯と並行して開かれたカナダ・カナナスキスの主要国首脳会議(サミット)は、アフリカ支援を中心議題に据えていた。W杯は国際政治と共鳴し合って、アフリカへの関心を過去見られなかったほど高めたのである。 W杯グループリーグにはアフリカから五カ国が参加したが、功労者は何といってもセネガルとカメルーンだ。セネガルは韓国で、カメルーンは日本でと、それぞれの開催国で話題をさらった。 ソウルでの開幕日、「西アフリカのライオン」と呼ばれるセネガル・チームが、前回の覇者フランスを1―0で破ったときのセネガルの人々の興奮は、想像して余りあるものがあった。熱狂した人々は全土で祝勝の踊りとデモに繰り出し、ワッド大統領は翌日を休日とする大統領令を公布した。 セネガルのワル・ファジリ紙はこう書いた。「フランスは又々、セネガルに恥をかかせることが出来ると踏んでいたに違いない。植民地時代、セネガルで好きなように振る舞ったフランス人気質は、いまもって治っていない。しかしセネガルは過去の歴史にしっぺ返しするべく、冷静に決意を固めていた。歴史を書き換えるにはW杯は格好の機会だった。そして見事、ライオンのひとけりが祖先たちの屈辱を晴らした」。

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