北朝鮮「変身」の知られざる背景

執筆者:武貞秀士2002年9月号

ワールドカップのさなかに韓国海軍艦艇を撃沈した北朝鮮。対立ムードが高まるかと思われたが、一転「平和攻勢」が始まった。そして世にも不可思議な「経済改革」にも着手――。北朝鮮で何が起ころうとしているのか。 朝鮮半島の動きはいつもドラマチックである。サッカー・ワールドカップ(W杯)の三位決定戦が韓国で行なわれた六月二十九日、韓国西方海上でワタリガニ漁をしていた韓国漁船に北朝鮮海軍艦艇が近づいた。出動した韓国海軍艦艇は北朝鮮艦艇の一撃で沈み、南北の和解プロセスは終わったと思われた。しかし、それから一カ月半あまり過ぎたいま、人々は朝鮮半島に対話と協調の時代が来たと感じている。事件の記憶が生々しいだけに、対話への期待はいっそう大きくなる。なぜ、いま「変身」か 朝鮮半島では、憂鬱な事件が起きたあと、対話・協調ムードが一挙に高まる。それは、金正日国防委員長(労働党総書記)のツルの一声で北朝鮮の行動が決まるからである。一方、「同じ民族同士なのに」の言葉にはとりわけ弱い韓国民は、北朝鮮が対話提案をすると、それに応えることが最優先になってしまう。これまで、北朝鮮の「平和攻勢」を韓国が拒否したことはない。朝鮮半島は対話モードに入った。緊張が増大すればするほど、ドラマチックに対話が始まるという「朝鮮半島の逆説」が今回も現実のものとなったのだ。

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