為替介入の「不経済学」

執筆者:吉崎達彦2002年9月号

円高はいまだに悪なのか。またぞろ「円高阻止」の声が高まっているが、製造業のアジアシフトが進む中、通貨政策の常識を改めて疑ってみる必要がある。 為替介入は普通、自国通貨を防衛するために行なわれる。多くの場合、この試みは成功しない。最近のアルゼンチンやトルコ、あるいはアジア通貨危機でのタイや韓国、インドネシアなどの例が典型だ。いったん価値の下がり始めた通貨は誰もが手放してハードカレンシー(強含みの通貨)に換えようとする。ひと儲け企む投機筋はここぞと売りに回る。政府は自国通貨の買い支えに入るが、最後は中央銀行が外貨準備を使い果たして万策尽きる。通貨の価値は落ちるところまで落ち、インフレと国民生活の破綻に至る。通貨が弱くなる国の末路は哀れだ。 ところがわが国の場合は、逆のベクトルの為替介入が常態化している。つまり為替介入とはほとんどが「円売り」を意味する。円高が進行すると、各方面から日本経済を守れとの大合唱が生じる。そこで通貨当局による大規模な介入が繰り返される。自国の通貨が強くなることを喜べない国なのである。なぜこんな奇妙なことが続くのだろうか。 財務省のホームページには、「外国為替平衡操作の実施状況」という統計資料が公開されている。これを見ると、一九九三年から今日までに行なわれた為替介入のうち、円売り介入を合計すると百九十二回、二十九兆二千二百五十五億円となる。逆に円買いが行なわれたのは九七年十二月から九八年六月までの計六回、総額四兆千六十一億円である。円を売る際に買われているのは、ほとんどが米ドル。つまりこの十年、金融不安で円安が進行した一時期を除き、わが国通貨当局はひたすら円売りドル買いを繰り返していたことになる。

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