十年ほど前『刑事エデン・追跡者』という映画が日本でも上映された。ニューヨークのユダヤ教超正統派コミュニティで起きた殺人事件の犯人を女性刑事が追い詰める物語だが、ストーリーとは別の面白さがあった。捜査の初日から主人公エデンは強烈なカルチャー・ショックを受ける。ノースリーブの禁止、厳格な食餌規定など、同じニューヨークに住みながら、あらゆる面で異なっている超正統派社会にエデンは心底から驚き戸惑いを感じる。だが、次第に超正統派が持つ優しさを理解するようになる。 こんな内容だが、ユダヤ教超正統派の存在をほとんど知らない多くの日本人にとっては、わけの分からない映画だったようだ。それでもニューヨークに行ったことのある日本人は、ほとんど超正統派ユダヤ教徒の姿を見ているはずだ。「ダイヤモンド・ストリート」と呼ばれるマンハッタンの四十七丁目に軒を並べる宝石店で働いている者の多くは、髭もじゃで黒ずくめの十九世紀的な服装をした超正統派ユダヤ人男性だ。 ニューヨークに住む超正統派(ハレディーム)の多くは、その中でもハシッド派(ハシディズム)と呼ばれる一派だ。「ハシッド」は「神を敬う者」を意味している。十八世紀に東ヨーロッパで生まれたユダヤ教の一分派で、神秘主義的な傾向が強く、特定の指導者を中心に強固な閉鎖的社会を作っている。

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