初のIRA系市長試されるその現実路線

執筆者:サリル・トリパシー2002年9月号

[ロンドン発]過去の紛争で三千人以上が犠牲となった英国・北アイルランドのベルファストで、六月、初のIRA(アイルランド共和軍)系市長が誕生した。市議会によって選出されたのは、カトリック系武装組織IRAの政治組織シン・フェイン党の幹部、アレックス・マスキー(五〇)。 七十五戦七十一勝の記録を誇る鼻の折れた元ボクサーにして元バーテンダー、シン・フェイン党入党前は英国支配への反発を港湾労働で紛らわせていたというマスキーは、何度か暗殺されかけた結果、腎臓と腸の一部を失ない、今も体内に銃弾の破片を抱えている。 英国からの分離とアイルランドへの併合を求める一方で現実主義者でもあるマスキーが、ベルファストという分断された街をいかに運営するのか――その施政は、カトリックとプロテスタントとの間で和平が前進するかどうかの試金石でもある。 マスキーの課題は山ほどある。IRAは七月十六日、初めて紛争犠牲者の遺族に対する「謝罪と追悼」を表明した。だがイギリス側は謝罪が遅すぎ、不十分であるとして不満を隠していない。北アイルランドの英国帰属派(プロテスタント)も、IRAの武装解除を信用していない。一方、シン・フェイン党側にも、大幅な歩み寄りをした割に手に入れたのは内実のないものばかりとの不満がある。

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