日本の夏は鎮魂の季節であり、来し方を振り返り、行く末を考える時間でもある。夏も半ばを過ぎたが、読んでおきたい本は少なくない。永野護の『敗戦真相記』(バジリコ)も、そんな一冊である。 著者は永野重雄元日本商工会議所会頭など「永野兄弟」の長兄であり、戦前、戦中、戦後にわたり、財界、政界で活躍した。オリジナルは敗戦直後の一九四五年九月の広島での講演速記であり、四六年一月に雑誌に掲載された。 それが装いも新たに再び世に出た。半世紀以上も昔の論文をなぜいままた世に問うのか。田勢康弘氏が解説で「日本は同じ過ちを繰り返している。敗因として永野があげたすべての項目が、いま、日本にそのまま当てはまる」と書いている。この本を読んだ人の多くは同じ感想を持つだろう。 こんなくだりがある。「日本にとって最も不幸だったことは(中略)建国三千年最大の危難に直面しながら、如何にこれを乗り切るかという確固不動の信念と周到なる思慮を有する大黒柱の役割を演ずべき一人の中心人物がなく、ただ器用に目先の雑務をごまかしていく式の官僚がたくさん集まって、わいわい騒ぎながら、あれよあれよという間に世界的大波瀾の中に捲き込まれ、押し流されてしまったのであります」

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