戦後志 未完の成功物語

執筆者:船橋洋一2002年10月号

我々はこの戦後を、どのような「志」を持って作りあげてきたのだろうか。歴史を刻んだ名著の読書ノートに著者へのインタビューを交え、新時代に臨んだ日本人の実像を浮き彫りにする人気連載「戦後志を読む」、最終回・特別篇。good loser――負けっぷりのよさ 日本の戦後のデザインは、敗戦後をgood loserとして出直すと腹をくくることから始まった。負けっぷりのよさのススメ、である。このコピー・ライトは吉田茂の手になる。 敗戦は敗戦として厳粛に受け止め、心機一転、未来に向かって出直せ。そのような心構えを説いたのは吉田茂だけではなかった。 重光葵も「サレンダーはあくまで『降伏』であり、単なる『終戦』ではない」とし、「国家としても個人としても敗者は敗者としての気品を維持し、徒に責任を回避して敵の憐憫を請い、卑屈の態度に出ることは絶対に防がねばならぬ」(『重光葵日記』)と思い定めていた。ずいぶんと後になるが、宮澤喜一は、ソ連崩壊後のロシアの苦しみについて「日本のようにぼろ負けに負けちまった方がかえって楽なんですね」と「負けきれない」ロシアの難しさを語ったことがある。天上の吉田は孫弟子に当たる宮澤のこの言葉を目を細めて聞いたのではないか。

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