夏の間、アメリカのブッシュ大統領は長い休暇にはいっていたが、その間、アメリカのメディアはイラク攻撃をめぐる議論で埋めつくされた。先月まで本稿で紹介してきたようなやや単独主義的あるいは「新帝国主義」的な論調に対して、共和党のこれまでの伝統的主流ともみられる人物からの慎重論が生まれ、ゴシップ的な論調も含めて盛んな議論が行なわれた。 九月十二日のブッシュ大統領の国連演説がアメリカの国論に統一をもたらすかどうかは本稿執筆時には明らかでないが、これらの議論がブッシュ大統領の国連演説の背景にあることを理解しなければならない。慎重論の内容は様々だが―― なんといっても注目をあびたのは、ブッシュ大統領の父である先代のブッシュ大統領の安全保障担当補佐官、さらにさかのぼればフォード政権の安全保障担当の補佐官であったブレント・スコウクロフトが『ウォールストリート・ジャーナル』に寄稿した「サダムを攻撃するな」(“Don't Attack Saddam”)と題するコラムであった。 スコウクロフトは、サダムが「脅威」(menace)であることは明らかであり、「アメリカの重要な利益への脅威」となっているとしながらも、「サダムとテロ組織、ましてや9.11とのつながりを示す証拠は少ない」という。「彼が大量破壊兵器をテロリストに手渡し、これまでの大量破壊兵器開発への投資と、そして国全体を危険にさらすことはありそうもない。テロリストが彼ら自身の目的のために大量破壊兵器を使い、その返信住所にバグダッドなどと書かれてはたまらないからだ」とスコウクロフトは指摘する。さらにイラク攻撃は決して容易なこと(cakewalk)ではない、またアメリカにとっての現在の最重要課題である「テロとの戦争からわれわれの関心をそらしてしまう」し、世界中の賛同も得られない現在の状況では、アメリカ単独の行動となってしまうと警告した。イラクの大量破壊兵器の危険に対処するには、国連の安全保障理事会に対しイラクへの完全な抜き打ち査察の体制を作るように働きかけるべきであり、これにサダムが応じなければ、その時こそ、開戦理由(casusbelli)が発生するのだと論じたのである(“Don't Attack Saddam”『ウォールストリート・ジャーナル』、八月十五日)。

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