国を誤る「金融ナショナリズム」

執筆者:末羅征幸2002年10月号

自らの失敗は棚に上げ、外資系金融を悪者に見立てる不健全な風潮が日本の金融業界を覆っている。スケープゴートにされた外資系の方は、お守り代わりに著名な日本人を招いて火の粉を払う。嗚呼、何たる不毛の連鎖……。「人魚事件」。今夏、ある外資系証券を巡る珍妙なスキャンダルが金融市場の話題を独占した。概要はこうだ。夏前、外資系証券Xが大手損害保険Yから、「持ち合い株解消を目的にETF(株価指数連動型投信)を組成する」注文を受けた。通常より有利な手数料で引き受けたのに、X証券によるヘッジ売りや株の仕込みは拙劣そのもの。ETF組成の際には先物相場が急落し、一方で複数の個別株が急騰した。一証券の手口が相場全体に混乱を引き起こしてしまったため、「X証券の背後にはY損保」という秘密でなければならない顧客情報がマスコミに漏れてしまったのだ。 外資系のX証券にとって市場全体の風評などどうでも良かったのだろう。経営陣は取引を成約した株式チームに特別ボーナスを即座に支給したという。懐が暖まったX証券の幹部はその後、金髪美女が水槽で人魚の格好をして泳ぐので有名な六本木の「人魚バー」に繰り出した。ところが偶然、隣のブースにY損保の幹部が座っていた。Y損保の幹部は激怒。「X証券のせいで、相場の攪乱要因として当社が槍玉に挙がったのに不謹慎だ」とX証券を出入り禁止にした――。

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