GDP(国内総生産)の五%を占めるフィアット・グループの退潮は、単なる一自動車メーカーの没落を意味しない。そこには、メディオバンカとIRIという庇護者を失い、グローバル資本主義に直に晒されたイタリア経済の現状が色濃く反映されている。[ミラノ発]すっかり秋の気配が深まった九月二十日。イタリア北部の工業都市トリノで、ある美術館の除幕式が行なわれた。「ジョバンニ、マレッラ・アニェリ美術ギャラリー」。同国最大の民間企業フィアット・グループの総帥、ジョバンニ・アニェリ名誉会長(八一)とその妻マレッラが、個人コレクションの一部を寄贈して設立した美術館である。 会場にはピカソ、マチス、モディリアーニ、ルノワールら著名画家の絵画、彫刻など美術史上価値の高い計二十五点が展示され、ジャーナリスト、業界関係者、各界の著名人らが多数詰め掛けた。 だが、除幕式のホスト役として姿を見せたのはアニェリ名誉会長ではなく、二十六歳の青年だった。名誉会長の孫ジョン・フィリップ・エルカン。フィアットの将来の後継者である。顔にまだ幼さが残るこの若者は、祖父のスピーチをやや緊張した面持ちで代読した。「このプロジェクトは我が故郷トリノへの感謝の気持ちを示したものだ」――。

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