CIAは長年にわたって北朝鮮の手法を徹底的に分析し、工作員も割り出してきた。日本もそのやり方に倣い、もう一度、調査を重ね情報を洗い直す必要がある。 青白く緊張した面持ちでじっと正面を見据える小泉純一郎首相。その向かい側で首相の目を見るでもなく、左右をきょろきょろ見回す血色の良い北朝鮮の金正日総書記。そして、その右隣りで薄笑いを浮かべる浅黒い姜錫柱第一外務次官――平壌からの中継で放映された日朝首脳の表情はあまりにも対照的だった。 まさにあの映像が日朝首脳会談の真実を雄弁に物語っていた。当初から厳しい顔つきで「実務訪問」に臨むと決めてはいたが、衝撃的事実を知らされてよけいに強く口をへの字に結んだ小泉首相。これで日朝正常化交渉は再開できるかな、と様子をうかがう金総書記といった図である。実は小泉首相、二年前、米クリントン政権のオルブライト国務長官が訪朝した際に毅然とした態度を示さず軟弱と批判された教訓を米側から教わり、学んだ演出だったのだ。 そしてその日の午後、鉄砲水のように溢れ出た拉致事件の衝撃的情報と、拉致被害者家族の涙と怒り、沸騰する世論。制御不能の大転回で外務省も官邸も、危機管理の基本動作などどこへやら、パニック状態に陥った。外務省はまずい対応で批判の矢面に立たされ、日本では情報の“筋”は忘れられたかに見えた。

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