米産業界の寡占傾向が目立ち始めた。AOL、デルコンピュータ、バンク・ワン……八〇年代の国際競争力低下につながった悪夢がくり返されるのか。 米通信学界の泰斗、コロンビア大のエリー・ノーム教授の最新論文が世界の通信関係者の注目を集めている。やや大げさに言えば、通信産業の歴史的転換点を語っているのかもしれない。タイトルを意訳すれば「サイクリカル産業の仲間入りした通信」。サイクリカル産業とは景気の循環に応じて市場規模が伸縮する産業のことで、日本語の「成熟産業」のニュアンスに近い。 ノーム論文はまず米通信の歴史を概観する。AT&Tを中心とする米通信業界は大恐慌期の例外を除いて一貫して拡大を続けてきた。ところが、昨年あたりから、右肩上がりの前提が明らかに崩れ始めた。いわく地域通信を寡占する地域ベル各社の契約回線数が減少に転じた。いわく米通信産業が生み出す損失は八〇年代のS&L(貯蓄貸付組合)を上回る五千億ドルに達する恐れがある――。 こうした現状分析に立って、ノーム論文は一つの解決策を政府に提示する。「オリゴポリー、すなわち寡占化の意図的な見過ごし(ビナイン・ネグレクト)」だ。米国の通信政策は一九九六年の改正通信法に代表されるように、これまで競争の促進が大命題だった。ノーム教授もこの分野の第一人者として、競争促進の流れに深くコミットしていた。

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