中南米に浸透する「エバンヘリコ」

執筆者:立山良司2002年11月号

 今年七月、ローマ法王ヨハネ・パウロ二世がメキシコとグアテマラを訪問した時、欧米各紙は「プロテスタントへの反撃」と形容した。実際、ラテン・アメリカではプロテスタントが急増している。今回のメキシコ訪問中に、法王が十六世紀の農民フアン・ディエゴをアメリカ先住民としては初めての聖人に列したのも、「反撃」のための明らかな布石だ。 ラテン・アメリカではカトリックが圧倒的に強い。人口でいえばブラジルが世界最大のカトリック国であり、メキシコが二番目だ。だが、このカトリックの“牙城”で異変が起きている。一九九〇年の人口調査によれば、メキシコでは五歳以上の全人口の七・三%がプロテスタントだ。この数字だけではまだ一割にも満たないが、七〇年に比べ三倍近くも伸びているし、実際はもっと多いといわれる。グアテマラの増加率はさらに急で、九〇年にはプロテスタントの人口比がラテン・アメリカで最大の国になった。 その意味で今回の法王訪問の意図は明らかだ。八十二歳という高齢なだけに、現地からの報道では、法王はかなり疲れた様子だったという。それでも法王は各地で「真のカトリック信仰を守れ」と呼びかけ、メキシコではフアン・ディエゴを列聖した。フアン・ディエゴは現在のメキシコシティー近郊にあるグアダルーペの農民で、一五三一年、彼の前に聖母マリアが現れたといわれる。現在「グアダルーペの聖母」は南北アメリカの守護聖人であり、その聖母堂はラテン・アメリカで最も重要な教会堂の一つだ。さらに法王はアメリカ先住民の二人を聖人に次ぐ「福者」に列し、先住民へのアピールを怠らなかった。

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