小泉訪朝で生まれた「期待」と「懸念」

執筆者:田中明彦2002年11月号

 この一カ月、日本で外交といえば、北朝鮮との関係のことであった。金正日が認めた拉致の事実とその悲惨な結末は、あまりに衝撃的であり、この問題の解明なしに日朝交渉を進めることは困難な状況になった。他方、日本における世論調査は、小泉首相の訪朝の意義については高い評価を与えた。北朝鮮の拉致(そしてこの問題の処理をめぐる外務省の不手際)に対して多くの国民は、非難の声をあげたが、北朝鮮訪問という小泉首相の決断は支持されたといえよう。高まる「日米韓」協調の重要性 国外の評価も各国政府のものはおおむね好意的なものが多かった。また、メディアにも高い評価が多かった。『ニューヨーク・タイムズ』紙社説は、「何十年にもわたる敵である日本に対して和解の試みを始めることで、北朝鮮は自らの孤立を緩和する重要な一歩を踏み出した」と北朝鮮の変化に着目した(“A North Korean opening”『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン(IHT)』、九月二十五日)。 ソウル在住の国際問題専門家のドナルド・グロスは「アメリカと北朝鮮の安保対話に道を開くことによって、小泉首相の訪朝は、北東アジアの安全保障問題解決にむけての基礎となるかもしれない」と指摘し、「ブッシュ政権がイラク問題に掛かり切りの現在、日本の創造的で開明的な外交は、決定的な時期におけるアメリカの北朝鮮に対する立場を強化した」と高く評価したのである(“A bold move by Koizumi”IHT、九月十九日)。

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