米格付け機関のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)はこの秋、東京証券取引所から三十六歳の内誠一郎氏を引き抜き、株価指数部門のトップに据えた。ライバル会社からのヘッドハンティングは日常茶飯事の金融・証券業界だが、この人事はS&Pと東証の競争関係を表すものとして話題になった。 内氏は東証在籍時、二十代でニューヨーク駐在を三年間務め、帰国後は株価指数のスペシャリストとしてS&Pに出向していた。「語学力、交渉力、専門知識ともに申し分なく、将来の幹部候補として期待されていた人材」(東証関係者)だけに、彼の転職には東証内部でも衝撃が走ったという。 S&Pがこうした人材獲得に力を入れるのは、株価指数の主導権を握る狙いがあるからだ。日本の株価指数では、東証一部の全千五百銘柄を対象としたTOPIXと、二百二十五銘柄で算出する日経平均株価が良く知られている。ともにNHKの定時ニュースで読み上げられるため個人投資家の知名度は高いが、年金基金などプロの間ではTOPIXがスタンダードになっている。 ところが、TOPIXに不満を抱く機関投資家は少なくない。大手生命保険会社で資金運用を担当する役員は「他に適切な指数がないので仕方なくTOPIXを使っているだけ」と話す。TOPIXは東証一部上場株だけが対象のため、日本マクドナルドやヤフーなど時価総額の大きな企業の株価でも、上場先が東証ではないのでTOPIXには反映されない。そのため、東証以外に上場する企業をやむなく投資対象から外しているファンドは少なくない。しかも、海外の株価指数は親会社や安定株主が抱える株を除いて市場に出回る株だけでマーケットの動きを表すのが普通だが、TOPIXにはそんな配慮もない。

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