医療保険改革「坂口私案」の大愚

執筆者:2002年12月号

今秋、坂口大臣が発表した「私案」に基づき、厚生労働省が医療保険制度の見直しをすすめている。その内実はと言えば、医療費増大のツケをまたしてもサラリーマンへ一方的に押しつけるとんでもないシロモノで……。 坂口力厚生労働相は今年九月二十五日、突如「医療保険制度改革私案」なるものを発表した。医療保険制度については、改正健保法が七月に成立、十月から七十歳以上の窓口負担が完全定率制に移行するほか、サラリーマン本人の負担を来年四月に二割から三割へ引き上げる「二〇〇二年度改正」が実現したばかりのタイミング。にもかかわらず、厚労相が新たな改革案を示さなければならないのは、〇二年度改正が小手先のものに過ぎず、財政破綻の危機が少しも遠のいていないからだ。 しかも、厚労相の私案は医療費抑制の具体的手段にはまったく触れず、増え続ける老人医療費の財源をサラリーマンが加入する健康保険組合に押しつけて急場を凌ごうというお粗末な代物だ。「抜本改革」にはほど遠く、これが実現すれば、社会保障制度に対する国民の信頼がさらに低下することは間違いない。 二〇〇〇年度にケガや病気の治療に使われた国民医療費は三十兆三千五百八十三億円。前年度に比べ一・九%減少しているが、これは一九九九年度まで医療保険に計上されていた介護サービス費用が、二〇〇〇年度にスタートした介護保険の会計に移行したことによる見かけ上の減少で、決して医療費そのものが減ったわけではない。

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