英国王室のサバイバル戦略

執筆者:土生修一2002年12月号

 エリザベス女王在位50周年の記念の年にもかかわらず、英国は女王祝賀一色ではなかった。人々の厳しい眼のなかで、英国王室はダイアナ流の近代化と変身を余儀なくされつつある。

[ロンドン発]11月1日、英BBCテレビのニュース専門チャンネルの画面に「緊急速報」の文字が流れた。「エリザベス女王の介入で、裁判が突然、決着しました。異例の事態です」。アナウンサーの声がうわずっている。故ダイアナ元皇太子妃の所持品を盗んだとして元妃の執事が窃盗罪に問われていた裁判で、「ダイアナの事故死直後、この執事からダイアナの所持品を保管していると聞いた」との女王発言がチャールズ皇太子を通じて警察に伝えられたという。「隠し持っていた」との前提が崩れたとして検察は訴追をあきらめたと、速報は続いた。

 翌日、英各紙はこのニュースで埋まった。元執事が起訴されたのは昨年8月なのに、なぜ女王は今になって事件のカギを握る五年前の会話を思い出したのか。これが最大の疑問点だ。元執事は、王室の内部事情に詳しい。英各紙は、「裁判で王室の秘密を暴露されるのを恐れ、女王は裁判を中止に追い込んだ」との疑念を大々的に報じた。

 今年は、英女王在位50年の記念の年にあたる。近代以前のイングランド王家を含めれば1000年を超える英王室の歴史でも、在位50年を迎えた王は、エリザベス女王でわずか5人目だ。英国では、銀婚式、金婚式のように、25周年、50周年がお祝いの節目になる。在位半世紀は、「ゴールデン・ジュビリー」と呼ばれ、さまざまな祝賀行事が企画された。

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