サムエルソン、ノードハウス著『経済学』(都留重人訳、岩波書店)に紹介されている実話だが、イギリスのある王立委員会が五人の著名な経済学者に行なった諮問に、六通りの違った回答があった。一人で二通りの答えを寄せたのが誰あろう、J. M. ケインズだった。おかしいじゃないですか? と聞かれ、彼は「前提が変われば答えも違う。あなただってそうするでしょう」とすましていたという。このエピソードをサムエルソンは、ケインズは一日に二回だけ正しい時を告げる壊れた時計でありたくなかったのだろうと解釈しているが、この話から「エコノミストが十二人集まれば、少なくとも十三の意見が表明される」というジョークが生まれた。 経済学や経済学者はジョーク向きの学問、人種であるらしく、これらをめぐるジョークは殊のほか多い。例えば「経済学者は世界最古の職業だ。神は混沌から世界を作り出したというが、混沌を創造できたのは経済学者だけだから……」とか、「エコノミストは、昨日の予測が今日当たらない理由をやっと明日になって説明する専門家」といったのもある。荒唐無稽の作り話だけではジョークにならない。現実を誇張して表現し、真実の隠れた滑稽な本質を暴いてみせるから、笑いを誘うだけでなく、「寸鉄論敵を刺す」武器ともなりうる。右の三つのジョークは「失われた十年」と呼ばれるバブル崩壊後の日本経済の状況に照らしても、格別辛辣なジョークだと感じられるではないか。

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