「国づくり」外交で指導力を発揮せよ

執筆者:船橋洋一2003年1月号

顕在化するユーラシア地政学、イスラムと中国の台頭など、アジアに巨大な変化が訪れている。アメリカが一国主義的傾向と戦略上の動揺を見せながらもイラク戦争に踏み切った後、日本はどのような課題を抱えることになるのか。 日本と北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との正常化交渉が、拉致事件に加えて北朝鮮の核秘密開発が発覚してスタックしてしまった頃、外務省高官は思わずため息混じりに漏らしたものである。「日本にとって難しいのは北朝鮮だけじゃない、米国も同じくらい難しい」 日本の同盟国の米国を「ならず者国家」の北朝鮮と等置するような発言を、ほかならぬ外務省のトップ外交官が口にする。 たしかに米国は正常化交渉を支持し、北朝鮮とは「外交的に問題を解決する」との立場を取っている。にもかかわらず、日朝の正常化交渉より北朝鮮の体制変革を引き起こしたいもう一つの米国がある。表の顔と裏の顔に分裂したような矛盾した米国がある。それが日本の外交を難しくしている。 九・一一後の米国の激しい動揺がその矛盾の根底にある。「自由にとっての最大の危険は、技術とラディカリズムの交差するところにある」(ブッシュ大統領のウェストポイント=米陸軍士官学校=演説)という安全保障観を米国は信じるに至った。大量破壊兵器(WMD)の拡散に対しては時には国家主権を曲げてでもそれを阻止する。それでもその拡散を完全に食い止めるのは無理かもしれない。となれば結局は、その国家の政治体制を変えることで“無菌化”する以外ない。南アフリカの核開発をアパルトヘイト政権打倒で廃棄させたように。

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