大阪湾で異常発生したカニの正体

執筆者:渡邊精一2003年1月号

 イタリアではフライなどにして食べるというチチュウカイミドリガニ。日本では十数年前に初めて発見されたこのカニが大阪湾で異常発生している。一時間で百尾以上も捕獲できるほどに増殖しているという報告もある。 チチュウカイミドリガニは地中海原産だが、実は、すでに東京湾には定着し、日本各地に分布域を広げている。ヨーロッパではごく普通に見られる近縁種のミドリガニに比較してやや小さく、緑色をしており、体長は十センチを下回る程度で雑食である。 チチュウカイミドリガニの増殖が及ぼす影響については各地の大学、水産試験場、水族館などで調査中だが、安閑としてはいられない。すでにアメリカでは近縁種のミドリガニによる大きな被害が報告されているのである。ミドリガニは一九八九年―九〇年に太平洋に分布を広げカリフォルニアに定着した。繁殖力が高いうえにさまざまな生物を餌とする点はチチュウカイミドリガニと同じで、爆発的に個体数を増やしている。その結果、現地の重要な海産物である食用の二枚貝(ブイヤベースに入っているようなムール貝などのイガイ類など)の稚貝が、このミドリガニによって食い荒らされてしまったのである。さらに捕食―被捕食関係を通して在来種の生物群集に変化を与えるのではないかと心配されている。

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