[ジャカルタ発]ソニーが、ミニコンポ製造工場を閉鎖しインドネシアから撤退する。同社はマレーシアなどへの移転を「世界規模で取り組む生産拠点最適化戦略の一環」と説明するが、実情はそう単純ではない。インドネシア国内の特殊事情に目を向けると、これまで有望な投資国とされてきた同国の“陰の部分”が浮かび上がる。「労働問題しかないでしょう。それしか、考えられません」 大手商社幹部は、二〇〇〇年にソニーが経験した労働争議が、撤退の遠因だと分析する。ラインの座り作業を立ち作業に変えるという会社側の提案に端を発した労使対立は、従業員千三百人のうち、千人がストライキに突入、最終的に九百人以上が解雇されるほどもつれた。その背景には、ソニーという世界ブランドを相手に名を売ろうとした、外部扇動者の存在があったという。 現在「インドネシア工場での労使関係は良好」(現地ソニー労組幹部)というが、一説には、同国の法定額を上回る巨額の退職金を支払ったという二年前の苦い思いは、会社側から消えることはない。 実はインドネシアに進出した外資系企業の多くが、操業開始直後から、様々な落とし穴の存在に気付き、困惑してきた。「ソニーも恐らく同じ理由で撤退するのだと思いますが、インドネシアでは税金、通関、労働の三点が最も深刻な問題です」と、ある家電メーカーの現地法人トップは語気を強める。この会社は税務監査のたびに、必ずと言っていいほど、税務当局の担当者から追徴課税を通告されている。「『法的な根拠を説明してくれ』と迫っても全く無駄。裏金を要求しているだけだから、相手は取り合おうともしない」というから厄介だ。

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