世界で一億人を超える加入者を誇る携帯電話最大手、英ボーダフォンが日本で三位のJ-フォンの経営権を握って一年。欧米アジア二十八カ国にビジネス展開する同社のクリストファー・ジェント社長がJ-フォンから吸い上げたのは「写メール」などの先進技術だけではない。「王冠の真珠」と評する日本市場での経験をもとに、携帯電話の世界秩序を揺るがしかねない動きを始めた。 二〇〇二年十月末、欧州の携帯電話市場で、ひとつの「革命的製品」が登場した。この端末はシャープ製のカメラ付き携帯電話「GX10」。ボーダフォンが同月開始した携帯電話によるマルチメディアサービス「ボーダフォン・ライブ!」の主力となる機種だ。 革命的なのは写真を撮ってやりとりできたり、ゲームができる点ではない。端末に「ボーダフォン」の真っ赤なロゴがプリントされていることだ。 通信会社がメーカーから端末を買い上げて販売する日本では「NTTドコモ」や「au」のロゴが入っているのが当たり前だが、欧米で通信会社のロゴが入った端末はおそらく初めてだろう。日本人には些細なことに見える。しかし、この変化がボーダフォンの抱く野望の象徴といえる。 欧米の携帯電話市場は日本と違い、ノキアやモトローラといった端末メーカーに長らく支配されてきた。陸続きの欧州や広大な北米では通信キャリアが細分化されたのに対し、これらに同じ端末を国境を越えて大量に供給するメーカーが栄えたためだ。

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