意外にも浮上した「農民車」という巨大需要

執筆者:五味康平2003年3月号

 昨年の中国の乗用車販売台数は前年比五六%増の百十二万六千台に達し、史上初めて百万台を突破した。バス、トラックなどを含めた自動車全体も三八・六%増の三百二十四万八千台と急成長した。乗用車市場ではフォルクスワーゲン、トヨタ、GMなど外資と国内メーカーとの合弁がトヨタの「ヴィオス」はじめ中国市場向け新型車を相次ぎ発売し、消費を刺激している。中国政府内には、今年の乗用車市場が百八十万台に達するとの予測すら出ている。 だが、中国の自動車市場をみる時、世界のトップクラスのメーカーが生産する有名ブランド車とはまったく異なるもうひとつの市場があることに注意する必要がある。「農民車」と呼ばれる簡易自動車の市場だ。もともと荷台付きバイクや農業用トラクターに屋根やドアを付け、二、三人が座れる席を設けただけの、乗用車とは呼べない存在。だが、価格は一万-三万元(一元=約十五円)と乗用車の数分の一で手軽なため、移動手段や農産物輸送が必要な農村部を中心に年間二百万台前後の需要があり、町工場に毛の生えた程度の地場メーカーが生産、販売している。 従来は明確に分かれていた農業車と一般乗用車の境界は、この一、二年、農業車の水準向上で次第にあいまいになり始めている。中国の自動車部品産業が外資の進出や国内メーカーの台頭で発展、農業車メーカーが良質な部品を低価格で調達できるようになって来たからだ。農民の所得向上で購入価格帯がやや上方にシフトしているという事情もある。そうした地方の農業車メーカーの成長が続けば、都市部でも低価格を求める層に食い込んでくる可能性は高い。

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