腑に落ちない「イラク戦争」

執筆者:2003年4月号

 大義名分のない戦争は失敗する。一点の曇りもない大義名分などありえないが、それでも国際社会に対してある程度の説得力がなければうまく行かない。そのことは第二次世界大戦で敗北した日本の例を持ち出すまでもない歴史の教訓である。 アメリカはいかなる大義名分でイラクに戦争をしかけるのか。このコラムを読んでくださっているあなたは、イラク戦争の理由についてすとんと腑に落ちておられるだろうか。「そんなことわかりきっている。イラクが大量破壊兵器を隠し持っていて、フセインがそれを使用したり、アル・カエダなどテロリストたちに渡る恐れがあるからだ」と多くの人は答えるだろう。ブッシュ政権の安全保障担当補佐官コンドリーザ・ライスは「フォーリン・アフェアーズ」にこう書いている。「イラクが大量破壊兵器を手に入れても、これを使うことはできない。彼らの国を破滅させるからだ」(二〇〇〇年一―二月号)。 イラクは大量破壊兵器を持っている。現にイランに対して八〇年代に使っている。またイラク国民であるクルド人を毒ガスで殺している。このとき、アメリカはイラクを非難したか。非難どころかイラクを助けていた。衛星がイランを撮った写真を提供していたし、炭疽菌などの生物兵器はアメリカから輸入したのである。かつて自らが与えたものを戦争の理由にしているのだ。

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