タイのタクシン首相が、二月一日から三カ月間で国内の麻薬を一掃すると宣言して始めた「麻薬戦争」。タイ内務省のまとめによると、この一カ月余りで密売人ら千百四十人が殺害された。大半は密売組織による口封じ殺人とみられ、麻薬ビジネスを「副業」とする軍人や警官の関与も指摘されるが、米国や国連人権高等弁務官事務所などからの「人権侵害」懸念をよそに、首相は強硬姿勢を貫き治安当局に檄を飛ばしている。 連日、捜査の行き過ぎを問われた首相は、ついに「国連はタイの保護者ではない!」と記者団を怒鳴りつけ、「ぶら下がり」と呼ばれるマスメディアとの即席の質疑応答では今後、政治的な質問は一切受け付けないと発表した。 国軍と警察庁の幹部を集めた三月五日の中間報告会では、実績の上がらぬ県の対策強化を決定。警察官僚出身の首相がこれほどまでに強気なのは、絶対的な影響力を持つプミポン国王が昨年十二月の自らの誕生日に際しての講話で、「麻薬の一掃を」と訴えたことでお墨付きを得たとの思いから。さらに世論調査でも、国民の九割以上が摘発の成果を支持していることにも自信を得ているようだ。

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