経済の構造改革に失敗した政府は、日銀にすべての矛盾の後始末をさせようというのか。秀才たちは笛吹き男よろしくウブな空論を唱え、思惑渦巻く現実政治を破滅へと導いてゆく。 それは奇妙な光景であった。イラクや北朝鮮をめぐる危機をそっちのけで、福井俊彦新日銀総裁の誕生に思い入れを込めた報道の嵐が続いたからだ。日銀プリンスの登板、“大物”財務次官の副総裁就任による大蔵支配の復活、政府と日銀のアコード(政策協定)……。いずれの指摘もどこかそらぞらしい。日本経済がバラバラに解体するのを、政策的に止められるかのように論じているからだ。 日銀を去るに当たって、速水優総裁が二月二十五日に行なった講演は、日本経済と日銀の実状を率直に表現している。ポイントは国内総生産(GDP)の二六%にも肥大化した日銀の資産だ。二月二十日現在の日銀の総資産は百二十八兆円。経済規模が日本を上回る米国の連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)の総資産が百兆円を下回るのに対して、日銀は過食症患者のように資産規模を肥大化させている。ほかでもない、速水総裁のもとで採用したゼロ金利政策や金融の量的緩和策が原因だ。 金融を緩和するために、日銀は民間銀行が保有する国債などをせっせと買い上げてきた。昨年九月には中央銀行としては禁じ手であるはずの株式購入にまで踏み切った。銀行が保有する株式を二兆円を上限に購入しようというのだ。一連の策は、もたつく日本経済の底割れを防ぎ、危機的状況にある金融システムに絆創膏を貼るのが狙いだった。

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