一九七一年、北朝鮮留学中に地元の女性リ・ヨンヒュイと恋に落ちたベトナム人ファム・ニョク・カン。体制の壁に阻まれながらも、三十年の文通で愛を育み、二人はついに結婚した。カンがヨンヒュイの北朝鮮出国を可能にするまでの軌跡を、前号に続きレポートする。[ハノイ発]カンの元にヨンヒュイからの手紙が届くのは年に一度か二度。いつも何の前触れもなく便りは届いた。ベトナム語で書かれた封筒の中には、学習帳の一ページに記された朝鮮語。書いてあるのは、お天気など当たり障りのないことばかりだった。しかし、カンにとっては、それこそがヨンヒュイの思いを表すラブレターだった。「友達同士のふりをして文通を続けていました。二人の関係を当局に知られるわけにはいかなかったからです。文面はどうでもよかった。彼女が手紙を出すというリスクを冒している。それがわかるだけで十分だったのです」とカンは語る。 平壌への留学を終えてハノイに戻ったカンは一九七四年当時――戦争は小康状態だった――北ベトナムの首都ハノイでエンジニアとして働いていた。国営工場の機械設計を行なっていたのだ。父親はハンガリー大使も務めた外交官だった。 そのころヨンヒュイは、カンと出会った時と同じ平壌郊外の小さな工場で研究助手として働いていた。

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