内心は別にして、国民による選挙でその地位を与えられる民主政治家は「世論は間違っている」などというセリフを滅多に口にしないものだ。国民を敵に回して得るものはないし、自らの説得能力の至らなさを告白しているにも等しいからだ。ふさわしい局面があるとすれば、世論を転換させなければならないという使命感に燃えている場合だけ。それ以外は負け惜しみか、あきらめのため息に過ぎない。 二〇〇三年度予算案が衆院を通過した翌日、三月五日の参院予算委員会で、小泉純一郎首相が発した一言は後者に近かった。質問者の直嶋正行民主党参院幹事長に「日本でも国民の七、八割はイラク攻撃に反対し、査察継続を求めている。査察継続の国際世論を無視し、米国が武力行使容認決議なしに攻撃した場合でも支持するのか」と詰め寄られ、「世論が正しい場合もあるが、世論に従って政治を行なうと間違う場合もある。それは歴史の事実が証明するところだ」とやったのである。 同盟国でありながら攻撃反対の立場を取れば、日米関係に決定的な亀裂を生みかねない。安全保障上も経済上も対米関係に多くを依存する日本の国益を考えれば、国連決議の有無にかかわらず「米国支持」以外の選択肢はない。どんなに世論の反発があろうと、国益を担う首相として、自分は信じる道を行くしかない。そんな覚悟をにじませたのだろう。

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